松江家庭裁判所 平成元年(家)570号 審判 1989年9月13日
申立人 高山邦子こと
李邦子
相手方 高山道雄こと
全道雄
事件本人 高山政江こと
全政江
主文
事件本人の親権者を相手方から申立人に変更する。
理由
1 本件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人、相手方はいずれも韓国籍であるが、申立人は昭和46年8月24日付で、相手方は昭和45年5月16日付で、それぞれ日本の永住許可を得、日本で居住している。
(2) 申立人と相手方は昭和51年11月4日婚姻の届出をし、昭和54年3月8日長女である事件本人をもうけ(なお、事件本人は昭和54年5月15日付で日本の永住許可を得た。)たが、申立人と相手方は次第に和合を欠くようになり、昭和63年10月、相手方は単身で鳥取へ転出し、以後現在まで申立人が事件本人を監護養育している。
(3) そして、紆余曲折があったが、申立人と相手方は平成元年1月21日、協議離婚の合意をし、その際、申立人は、自己が事件本人の親権者となることを希望し、相手方もこれに同意した。
(4) そこで、申立人が松江市役所に離婚届の用紙を貰いに行ったとにろ、右市役所の係員から、「韓国人夫婦の協議離婚の場合、子の親権者は父として届けなければ受理されず、後に家庭裁判所の審判により親権者を母に変更することができる。」と説明されたので、平成元年7月26日、とりあえず事件本人の親権者を父である相手方として相手方との協議離婚の届出をし、本件親権者変更の申立に及んだものである。この経過は相手方も知っている。
(5) 現在、申立人は事件本人とともに肩書住所に居住し、申立人が事件本人を養育している。
相手方は肩書住所に居住しており、事件本人の親権者を相手方から申立人に変更することにも同意している。
2 ところで、本件については、父の本国法である大韓民国法によるべきところ、同国民法909条によれば、夫婦が離婚するに際し、当事者間の未成年の子の親権者の指定については自動的に父に定まつており、本件申立の如き親権者変更の制度は同国法では認められないものと解される。
しかし、前記認定事実によれば、申立人、相手方、事件本人とも日本の永住許可を得て日本で生活している等、その生活の本拠は日本にあり、申立人と相手方との離婚に際しても、当事者間では両者間の長女である事件本人の親権者を申立人とする旨合意していたが、韓国人夫婦間の協議離婚においては、両者間の未成年の子の親権者を母とする離婚届は戸籍管掌者に受理されないことから、便宜、事件本人の親権者を相手方とする離婚届をしたものであり、事件本人の親権者を相手方から申立人に変更することについては相手方も同意しており、申立人と相手方が別居した昭和63年10月以降は申立人が事件本人を現実に監護養育しているのであり、これらの事実によれば、事件本人は母である申立人の許で引き続き監護養育されることが同人の福祉に合致するものというべきであり、このような事情にある本件において、相手方を事件本人の親権者としておくことは、事件本人を継続して監護養育している母である申立人から親権者の地位を奪うことになって、親権者の指定は子の福祉を中心に考慮決定すべきものとするわが国の社会通念に反する結果を来し、ひいてはわが国の公序良俗に反するものというべきである。
したがって、本件においては、法例30条により、親権者変更を認めない大韓民国民法の適用を排除し、事件本人の親権者を父である相手方から母である申立人に変更するのが相当である。よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 辻川昭)